cafe634

東銀座、歌舞伎座の裏手。歴史ある小さな飲食店や画廊、お弁当屋など下町風情を残した魅力的なエリアの一画で隠れ家のようにカフェ・ムサシは営業していた。もともと店主の親族が経営していた鉄骨造の印刷所ビルが役目を終え、その1階で働く人のために一汁三菜を基本とした家庭的なランチを提供していた。健康志向の女性客にとても人気があり、口コミや雑誌の評判もよいお店である。

老朽化の中で3.11でダメージを受けたことも相まって、全体をカフェダイニングに建て替えたいとご依頼をいただいた。男性客にももっと気軽に来て欲しいという思いから、以前のかわいらしさから一転して白、黒、グレーをバランスよく組み合わせ、あたたかみのある照明でスタイリッシュにまとめ、飲食店以外の用途でも十分使えるニュートラルさを目指した。

最低容積率がまちづくり条例で決められていたが、自己所有であり経営上過剰な床面積は不要だったため、施主の利益と天秤にかけ、粘り強く交渉して最低容積率を切るかたちで収めることに成功した。一番の要望は「吹き抜けのあるダイニング」で、天井高さ最大5.6m、外観からは伺え知れない開放感があり、訪れるお客様は驚きと高揚感に包まれ、ほっと一息つくことができる。

規模は3階事務室含め50坪。除けば住宅の規模で、都市型住宅のようなつくりでもある。構造計算適合性判定の対象ではなかったが、細長い敷地でのヴォリューム形状や杭を要する地盤状況から適判にかけ、可能な限りの対応を行った。

誰にでも潜在的に欲する隠れ家的な居場所は飲食店、住宅問わずどこか相通じるものがあるように思う。提供される食事、コーヒーはすべて厳選された素材でつくられており、建物はこの食事と人が引き立つように、素材同士のぶつかり合いを正直に見せつつ「背景としての建築空間」となるように綿密に計画し実現した。正直に見せるために膨大な隠れた手間に支えられており、いかにも当たり前であるかのように魅せることに注力した建築である。

現在「cafe634洗足池店(当事務所設計監理)」に移転し、テナントビルとして経営。完全予約制の高級ステーキ店が入居中。

計画年:2012~2013.12竣工
場所:東京都中央区銀座
用途地域:商業地域
建蔽率/容積率:78.54%  (100%)/194.57%  (240%)
防火指定:防火地域
地区計画:銀座地区地区計画
その他条例:東京都福祉のまちづくり条例
工事種別:新築
用途:飲食店
敷地面積:85.06sqm
建築面積:66.8sqm
延床面積:165.5sqm
構造:鉄骨造
基礎:ベタ基礎
杭:小口径鋼管杭
階数:地上3階
最高高さ:9.288m

基本設計期間:2012.7~2012.9
実施設計期間:2012.9~2013.5
設計・工事監理:前見建築計画 前見文徳
構造:有限会社大賀建築構造設計事務所 大賀成典、坂本英己
設備:株式会社イーエスアソシエイツ 辺見久活、小川泰志/環境トータルシステム 木林茂利
地積更正:S&R設計事務所 斎藤徹
厨房設備:タニコー株式会社 丹羽昭智、泉山亜矢
施工:山庄建設株式会社
建築確認審査・中間・完了検査:株式会社グッド・アイズ建築検査機構
家具材:勝又木材有限会社 勝又健夫/濱本木材株式会社 濱本敦子
スチールサッシ:田中サッシュ工業株式会社
撮影:布施貴彦

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cafe634プラン検討変遷
fig.cafe634平面の変遷