森の社交場

札幌国際芸術祭(SIAF)2014において、ゲストディレクター坂本龍一氏から提案を受けて、大正時代の歴史的建造物である札幌市資料館(旧札幌控訴院)を次世代のアートや新しい創造性を発信できる場として活用するための国際公募の応募案。

札幌大通公園の景観軸の末端に位置する資料館は、雪まつりに代表されるようにその威風堂々とした正面が市民や観光客を受け止める終点にもなっている。本提案では終点的存在の資料館を創造的な活動の始点へと反転させるべく、建物を通り抜けて緑豊かな裏庭へ誘うように新たな動線を設け、周辺地域に開かれた芸術のためのポルティコを挿入する提案を行った。

このエリアは景観重点区域や大通風致地区という厳しい条例に指定されており、大規模開発には不向きなエリアである。そして、地区計画において「雪は札幌らしさそのもの」と謳われており、空間形態を工夫しながら歩行空間のネットワークを図るよう提唱されている。逍遥空間を考えながら札幌らしい文脈を形成するものに相応しい形式として、既存樹木を伐採せず、保存しながら離散的にポルティコを配置する提案を行った。

ポルティコのネットワーク形成には現在裏庭にある円環の小道を積極的に活かし、その道なりに大小様々なポルティコが高低差を伴って接続されている。それによって市民の日常動線がそのまま芸術鑑賞やワークショップの活動動線にシフトすることを試みた。

全体の構成は既存樹木の位置や、現存しない旧控訴院時代の官舎跡、既存建物出入口に残る棟木の受け穴跡などを注意深く読み取り、時のうつろいが感じられるよう配慮した。

今回の提示された条件には、既存建物の耐震性や劣化状況がわかるものがなかった。そのような段階でむやみに建物を改変してはならず、既存建物を最小限の改修で最大限の効果をもたらすよう努めた。

したがって、裏庭の樹木も最大限保存し、残土処分が莫大となるような大規模掘削も行わなかった。仮に受賞し市に提言がなされた場合には、既存建物のより詳細な調査と、行政・市民と協働して「残したい空間」についてワークショップを重ねながら改修ポイントを増やすなど、「すぐに完成形を提示しない」、「市民とともにつくりあげる」ことも大事なテーマとして臨んだ。

戦後70余年。公共施設の作り方、維持管理の仕方、関わり方に対してひとりひとり問われる風潮が高まっている。本コンペ、本提案では行政が知らぬ間に中身(プログラム)を決め進んでしまう公共施設に対して、納税者・エンドユーザーの立場に立って中身を考える必要があるのではないかという示唆に富んだ試みが審査員と提案者双方でなされた。

計画年:2014
場所:北海道札幌市
用途:公共施設(アーティスト・イン・レジデンス)

札幌市資料館リノベーションアイディアコンペ ショートリスト
作品展示:札幌国際芸術祭2014(SIAF2014)札幌市資料館

審査員(敬称略、順不同)
坂本 龍一(札幌国際芸術祭2014ゲストディレクター)
青木 淳(建築家/青木淳建築計画事務所)
坂井 文(北海道大学大学院 工学研究院准教授)
涌井 雅之(造園家/東京都市大学環境情報学部教授/岐阜県立森林文化アカデミー学長)
武邑 光裕(札幌市立大学 デザイン学部教授)