cafe634の袖看板である。銀座店ではシンプルで奥深いメニューに誘発された直線で構成されるシンプルな内外装の象徴として立方体そのものをアイコンとし、東銀座の路地裏において一見何の店か認識しにくいミステリアスさを狙った。河川の擁壁に取り付けたモックアップで視認性を確認して、慎重にサイズを決定している。
建築は基本的にサインなどなくても利用できるのが望ましいが、不特定多数が利用する施設では必要に応じて効果的なサイン計画が必要となることも事実である。したがって、ここでもヴォリュームとしては謎を残しつつ、サインロゴもデザインした。はじめは金ピカでちょっと下卑たゴージャスさを醸す真鍮をあえて用い、酸化錆をまとわりつかせることで経年変化とともに謎めいたヴォリュームに同化していくようなストーリーを与えている。1年後にはくすみだし、3年でも写真のようにほぼ読解が困難になった。
それから5年たち、洗足池店がオープンした。一からデザインし直すことは簡単だが、東銀座店の記憶の継承と新規顧客への認知度を高めるべく、東銀座店から移設し、本体を白に塗り込め再活用することを選んだ。施主からリクエストがあったわけではないが、工事中も木製でオープンのお知らせ看板を作成し、継続的なPR効果も狙った。背景を反転させたことで、くすんだ真鍮のロゴは背景から浮かび上がり、新天地の行き交う人々の目に「cafe634」を認知してもらえる契機となった。店舗というのは変わり身が早いアーキタイプであるが、いつ変わるか予測しにくい中でも永く愛されるデザインを想定したい。
計画年:2012~2018.9竣工
場所:東京都中央区銀座~東京都大田区上池台
用途地域:商業地域~近隣商業地域
工事種別:改修
用途:飲食店
本体:スチールt=1.6 焼付け塗装(黒:GN-10 艶なし)~現場塗装(白:GN-93 艶なし)
文字:真鍮磨き切り文字(片面のみ)
サイズ:W250xD500xH250
設計・工事監理:前見建築計画 前見文徳
撮影:布施貴彦、前見文徳