cafe634洗足池店

店舗兼用住宅のリノベーションとなる、cafe634の移転リニューアル。店主は当事務所で設計・監理した《cafe634東銀座店》を収益物件としてテナントビル化し、住み慣れた大田区に築36年目の「東銀座店の間口と似たような奥行きのある店舗併用住宅」を1棟借りして店舗移転を決意された。職住近接で個人経営としての日常生活への負荷を減らしながら、高齢化する商店街の中で地域のカフェ、まちの食堂を目指すべく、再度設計をご依頼くださった。

物件は元々フルーツ店でオーナーは他県に移住。道に面する10坪弱の店舗部分しか賃貸として提供できず、住宅として借り手も見つからず、オーナーにとってももったいない物件で空間の状態としては空き家そのものに見えた。1階奥は薄暗いダイニングキッチン、2階は浴室・洗面所の水廻りをセンターコアとした東西に分散された和室2部屋、3階にリビングと洋室。

1棟借りのメリットを最大限引き出すには用途変更届をする必要があったが、完了検査を受けていない(そもそも完了検査がない)物件のため、費用対効果の検討から100㎡以下で計画することを提案※。1階をまるごと飲食店仕様に改修し、2階和室はイベントスペースとして様々な活動の受け皿として必要最低限の改修のみとした。2階の水廻りや和室の押入れを撤去し、浴室の床版の撤去で作った吹抜けを介し、東西に分断されていた和室とカフェ空間を垂直方向につなげることで薄暗さを払拭し、活動を立体的に展開させることを意図した。

商店街を見渡しても無かった一見どこにでもありそうな生成りの暖簾は、歩行者に「涼」や「動き」を感じさせ、商店街そのものが生きている雰囲気を作りたいと思い提案。内装は要望だった開放的な木製サッシや木天井、清潔感のある白塗装の壁やタフな使い方に耐えるRCの床のような新規マテリアルに対して、2階に至る剥ぎ取られ再塗装されたシンプルな鉄骨階段、輪郭をぼかした白塗装のインテリアラーチで仕上げた和室床、将来DIY塗装も視野に入れた荒々しさを残したパテ仕上げや、以前を想起させる柱残しなど、1階と2階の雰囲気を切り替え、新旧の構成要素が階調をもってつながるような「コンバージョン未満リノベーション以上」という、今後も段階的に成長できる余地(二期工事など)を残した住宅スケールならではの等身大のカフェ空間となっている。

※2019年6月25日施行により、用途変更手続きが必要な規模が100㎡超から200㎡超に引き上げられ、200㎡以下の小規模な建築物の用途変更手続きが不要となっている。本件は2018年なので100㎡以下で変更手続き不要のルートで対応している。

計画年:2018.1~2018.9竣工
場所:東京都大田区上池台
用途地域:近隣商業地域
建蔽率/容積率:79.82% (80%)/265.84% (300%)
防火指定:準防火地域
高度地区:第3種高度地区
工事種別:改修
用途:飲食店
敷地面積:65.96sqm
建築面積:52.65sqm
延床面積:175.35sqm(178.20sqmから減築)
店舗面積:98.40sqm
構造:鉄骨造
基礎:ベタ基礎
階数:地下1階+地上3階のうち地上1、2階
最高高さ:9.175m

基本設計期間:2018.1~2018.3
実施設計期間:2018.4~2018.6
工事期間:2018.7~2018.9
設計・工事監理:前見建築計画 前見文徳、山之内教浩(協力)
構造アドバイザー:有限会社大賀建築構造設計事務所 大賀成典
設備設計:株式会社前田設備設計事務所 前田康雄
厨房設備:タニコー株式会社 丹羽昭智
暖簾デザイン:有限会社中むら 中村新+店長ご子息(ロゴ)
フラワーディスプレイ:NIKO FLOWERS+ 和久井純子、江澤佑己子
施工:山庄建設株式会社
家具材:Indigo Okinawa
撮影:武野綾香