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都市の自然はいつまでもない、つくられた風景である

都内には生産緑地法による30年の管理を要する宅地化できない生産緑地が散見される。地方ではあまり見受けられない独特の風景である。住宅地に虫食いのように散在し、地主の意向によって決められたキャラクターが宅地の規模で展開していく様子はパヴィリオンさながらといっても過言ではないと思う。しかし、維持していく当事者は加齢や後継者がいない場合、徐々に社会との関わりが希薄になり、やがてさびれてくる。観察者にとって楽しいパヴィリオンは人工的な自然であり、いつまでもある風景ではないことに気付かされる。

緑地を取り巻く環境と緑地のあり方を見直す

計画はこの「パヴィリオン性」と内部で展開する「生産されていく場所性」、そしてかつては大きな土地が分筆によって細分化され現在に至る「住宅地の歴史性」と、住宅地における「個人の運営」を背景に、生産緑地を取り巻く環境と緑地自体の関係を見直すきっかけとして計画したものである。

境界に介入し都市をぼかず作法

生産されていく場所(=農地、緑地)に手をつけることなく、その敷地境界を使い切っていくという方法で、具体的には境界面にガラスを採用し、塀の再構築や、敷地内に入らない人でも通れる散策路を貫入させ、その壁面に生産物の履歴を展示したり、内部では公園のように休憩できるベンチを設けたり、また一部を農具などの倉庫や、即売所として機能的に使うなど、直近の敷地内外の環境が相互に関係を強めていくようなことを目指しつつ、施設化を図ることで社会的な存在としての新しい緑地の再構築を目指した。このような作法(介入)によって大都市の公園や古びた児童公園のようなかつての都市プログラムに変わる、次世代の公園としても見直されればと考えている。

計画年:2000
場所:東京都世田谷区
用途:生産緑地+ギャラリー+直売所+休憩所
規模:1,218.9sqm
構造:単管パイプ+ワイヤー、ガラス
階数:平屋

第35回セントラル硝子国際設計競技 「ガラスの小さな公共空間」 優秀賞
審査員(敬称略、順不同)
伊東 豊雄(審査委員長/伊東豊雄建築設計事務所)
内藤 徹男(審査委員/日本設計)
岡本 賢(審査委員/久米設計)
長谷川 逸子(審査委員/長谷川逸子・建築計画工房)
山本 理顕(審査委員/山本理顕設計工場)
隈 研吾(審査委員/隈研吾建築都市設計事務所)
馬場 璋造(コーディネーター/建築情報システム研究所)

審査講評
伊東豊雄
優秀賞の前見案は、地道に公共建築に取り組もうという姿勢に好感が持てた。プログラムには一工夫ほしいが、ほとんど塀のように奥行きの薄いガラスの囲いの空間は、都市公園のような場所での展開の有効性をもち得ると思われる。
内藤徹男
優秀賞の前見案はガラスの掛け小屋で(昔なら竹とヨシズでつくったものだが)都内の住宅地に残る塀をグルリと囲んで現代的な風景が想像されて楽しく。
岡本賢
優秀案に選ばれたのは緑地にガラスの回廊をつくり公共空間へと転化させるという現代性のある提案でした。
長谷川逸子
優秀賞の前見案は多数の作品の中で唯一建築的なものでした。農園や空地のその境界線上を回廊のようなガラス空間で取り囲み、展示などの企画を導入する。そうした空間を連続させ、さらには接続する都市機能の活性化をも図ろうとするものです。線上の空間の連続がプライベートライフにも連続していくことがイメージでき、新しい公共装置の可能性を感じました。