愛媛県八幡浜市の人口減に悩む離島における、交流拠点デザイン設計競技の応募案である。
だれでも入りやすい広場へ
盛んに投資されようとする交流施設の多くは、ガラスを多用し、開こうとするものの都市に対して閉鎖的な表層を打ち破ることは難しく、活動そのものの表出がうまくいっていない。「意外にもガラス一枚隔てられた向こうの世界は何が⾏われているのかわからず入りづらい」という環境形成の失策が指摘されることがある。
特に小規模の場合、完結した内部空間では市⺠と観光客との交流はおろか、特定の市⺠が陣取ってしまうような空気が生まれてしまうと、施設運営が機能しなくなることもある。そこで、住⺠の日常利用を許容しながら住⺠も観光客も気兼ねなく⽴寄れるように、「だれでも入りやすい広場」として交流スペースの半分を土間の半屋外として沿道に全開放し、屋上デッキと連続したオープンスペースを提案した。木造平屋が条件であり、予算も一般的な木造住宅規模だったが、隣家には解体前提の空き家なども隣接し、ヒューマンスケールのあるエリアに対して施設を「家」として考えるのは妥当な帰結だった。本施設は観光船発着所から徒歩で立ち寄れる場所にあり、物産品販売や待合、産直市や祭事・催事の場としてだれでも佇んだり、意⾒交換したり、ひと仕事のあとお弁当を食べたり、開かれた縁側スペースで将棋を打ったりと、思い思いの時間を過ごすことができる気軽さを狙った。
美味いを持ち帰れる広場へ
会議室としても使える30名程度を想定した喫茶スペースが求められていた。この飲食規模では人員を絞って忙しい時間であるランチタイムまでカバーできる喫茶の規模は20席程度が限度であることを指摘しながら、30名に対応できる厨房機器を想定した場合、スタッフは要項で想定している人数では確実に不足すると考え、オペレーションの協議によって決定されるべきだとしながらも調理1名、補助1名、ホール2名程度が最低限必要な数として提案。近隣にある養殖試験場や獲れたての魚介類や野菜、果物を八幡浜市内にある「どーや市場」のマイスターなどを講師として招聘し、メニュー研究・開発し、観光客に郷土料理体験をしてもらう体験教室のようなイベントをツアーに組み込むだけで「持ち帰るに値する」ような、記憶に残る経験が得られるのではと考えた。地産地消ができる地域が観光地化する時、どのように客に持ち帰ってもらえるかが大事だと考えた。
ICTを活用したへき地診療ハブとしての交流施設構築へ
交流施設は診療ハブでもなければならない。
「へき地保健医療対策実施要綱」H13.5.16厚生労働省医政局⻑通知や離島振興法では人口減とへき地診療体制の維持向上は大きな課題である。大島診療所と本拠点をつなげ、ソフト面の開発や施設間連携への対応も考慮する必要があると考え、高知県土佐町で⾏われているNTT⻄日本と連携した独居高齢者宅に「IP版緊急通報端末」と「安否センサー」による「⾒守りシステム」の導入の提案を行った。病気や怪我、認知症など在宅生活に不安を抱える住⺠へ向け、異常が生じた時にそれを察知し、敏速な対応を取れる仕組みであり、緊急端末ボタンを押すと県外へ設置されたコールセンターへ通報が入る仕組みである。ただし、離島の場合それでは遅いため、診療所とのシステム連携、ドクターバンク等の活用、コールバックの拠点として本施設に⾒守り用PC設置等のシステム構築を提案。住⺠あっての観光業を中心に据えたまちづくりを考えた場合、要となる施策になるのではないかと考えた。観光客の不慮の事故でも本施設と診療所の連携があると良いと考え、ソフトプログラムの提案も同時に行った。
計画年:2017
場所:愛媛県八幡浜市
用途:公共施設(集会所+売店+飲食施設+展望デッキ)
規模:95.05sqm
構造:木造(在来工法)
階数:地上1階